インドネシアは、国別では、世界で最も多くのイスラム教徒(ムスリム)人口を持つ国と言われています。では、全人口の何%がイスラム教徒なのでしょうか。
▼全人口の87.18%がイスラム教徒
中央統計庁(BPS)の2010年人口センサスによると、全人口2億3764万1326人のうち、イスラム教徒は2億717万6162人で、全人口の87.18%を占めています。
やはり、圧倒的にイスラム教徒人口が多いですよね。インドネシア=イスラムというイメージが強いのもうなづけます。なかでも、人口の多いジャワ島で、9割以上がイスラム教徒で占められていることが、イスラム教徒が多い大きな理由となっています。
▼イスラム教以外の宗教は?
インドネシアで宗教として認められているのは、イスラム教以外に、プロテスタント教、カトリック教、ヒンドゥー教、仏教、儒教であり、計6宗教です(日本でいうキリスト教は、インドネシアではプロテスタント教とカトリック教に分かれます)。
イスラム教徒に次いで人口が多いのはプロテスタント教徒で、全人口の6.96%に当たる1652万8513人です。以下、カトリック教徒(2.91%、690万7873人)、ヒンドゥー教徒(1.69%、401万2116人)、仏教徒(0.72%、170万3254人)、儒教徒(0.05%、11万7091人)の順となっています。
▼イスラム教徒が少数派の地域がある!
全体でみると、イスラム教徒の比率がとても高いインドネシアですが、地域によっては、イスラム教徒がむしろ少数派となっている地域もあります。
たとえば、東ティモールと国境を接する東ヌサトゥンガラ州では、イスラム教徒の比率がわずか9.05%しかありません。
東ヌサトゥンガラ州で最も多いのはカトリック教徒で、州人口全体の54.14%を占めています。カトリック教徒の次に多いのがプロテスタント教徒で、州人口全体の34.74%です。
東ヌサトゥンガラ州はキリスト教徒が圧倒的多数派の世界なのです。
東ヌサトゥンガラ州以外でイスラム教徒人口が少ない州を挙げると、バリ州(イスラム教徒人口は州人口全体の13.37%)、パプア州(同15.89%)、北スラウェシ州(同30.9%)、西パプア州(同38.4%)などがあります。
バリ州で最も人口比率の高いのはヒンドゥー教徒で、州人口全体の83.46%となっています。それ以外の3州では、プロテスタント教徒が州人口全体の過半数以上を占めています。
▼宗教(agama)と信仰(kepercayaan)
インドネシアには、国是としての建国五原則(パンチャシラ)というものがあり、その第一原則で、「ただ一つの神を信じること」が定められています。それに基づいて、先に挙げた6つの宗教のみが宗教として定められています。
他方、カリマンタン島やスラウェシ島などでは、今も精霊信仰や伝統信仰が根強いところがあります。その場合、宗教はどうなるのでしょうか。
こうした人々のなかには、便宜的に「ヒンドゥー教」としているようです。
このように、6つの宗教以外の精霊信仰などは「信仰」として宗教と区別しています。ですから、ヒンドゥー教徒で精霊信仰、といったことが成り立つのです。
(補足)宗教と信仰とは区別されていますが、近年、住民登録証(KTP)の宗教欄へ、政府が定めた6宗教以外に「信仰信者」(penghayat kepercayaan)と記入することが認められました。これは、2017年11月7日、憲法裁判所が「宗教欄を6宗教に限定するのは違憲である」との訴えを認める判決を行なったためです。
▼イスラム教徒も濃淡いろいろ
イスラム教徒といっても、その信仰の度合いは濃淡様々です。教義に忠実であろうとする原理主義的なイスラム教徒もいれば、住民登録証(KTP)の宗教欄を埋めなければならないので、とりあえず「イスラム教徒」と書いておく「KTPイスラム」という人々も存在します。
古い年代のイスラム教徒は、高僧や説教師を通じて、イスラムの教えを伝え聞き覚えてきた面が強いようです。一方、若いイスラム教徒はコーランをアラビア語で読み、暗唱する者もいます。そうすると、古い世代のイスラム理解を「コーランにそぐわない」として若い世代が批判することもあります。
イスラム教徒が多いと言っても、すべてのイスラム教徒の信仰度が同じように強いわけではありません。むしろ、インドネシアでは、穏健で調和を重視する柔らかで優しいイスラム教のほうが主流となってきました。
ただし近年、イスラム教の厳しい面を強調し、西洋文明を明白に敵視するグループが発言力を強める傾向がうかがえます。もっとも、そうした動きに対して、穏健派からは「アラブ化」との批判が打ち出されています。
▼イスラム教は国教ではない!
イスラム教徒が全人口の87.18%を占めるインドネシアですが、イスラム教は国教ではありません。そもそも、インドネシアには国教というものは存在しないのです。
インドネシアを理解するために、イスラム教を知ることは重要です。しかし、イスラム教のみでインドネシアを語ることはできません。このことを、ここで改めて強調しておきたいと思います。